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  言葉が尽きたところから音楽は始まる・・・ 

そもそも、〈音楽〉とはどういった意味でしょうか?日本の辞書によると、1)音による芸術。拍子、節、音色、和声などに基づき
種々の形式に組み立てられた曲を奏するもの。器楽と声楽とがある。2)歌舞伎の鳴り物のひとつ」とあります。712年に撰録され
た古事記には「琴を弾く…歌を歌う…」などの表現が出てきますが、「音楽」という言葉はまだ出てこず、717〜724年に撰進された
常陸(現在の茨城県)風土記に、「…七日七夜遊び楽しみ、歌い舞い、時に賊の党盛なる音楽(うたまい、あるいは、もののね、と読
んだそうですが)を聞きて…」とあるそうで、賊をだまし討つために歌ったり踊ったりしてもてなし、油断させる手段としての音楽
だったようです。現代のお酒を飲んで騒ぐ人たちのルーツを見るようですが、音楽に作曲家や自分のメッセージを表現して、聴く
人に伝える、という意識が薄いようです。

  音楽は美を追究する行為 

西洋の「音楽」を表す言葉「music」の語源は、広い意味では文芸一般、狭い意味でも音楽を中心に、詩、舞踊、演技などを取り入
れた総合的な表現芸術をあらわすギリシャ語の「ムシケー」からきています。この「mousike」はギリシャ神話の中で、芸術と科学
を司っていたミューズの神「Muse」のギリシャ語「ムーサ・ Mousa」の形容詞ですが、古代ギリシャ人の間では、音楽が真理また
は美の追求に関連する行為に共通な、あるいはその基本となるものだったようです。どんな音楽を奏でていたかは知る由もありませ
んが、音楽が今よりもっともっと生活の中で重要な意味を持っていたのは確かかもしれません。

  ピタゴラスと音楽の関係 

B.C.6世紀に活躍した哲学者で数学者のピタゴラスが、5度音程の振動が2:3(8度音程は1:2)で共鳴することから1オクター
ブ間の12の音を発見したことからも、西洋音楽の純正調に近い音感を持っていたとも考えられます。ギリシャ神話によれば、音楽
は神に起源を持ち、音楽を始めたのはアポロンやなどの神で、音楽は魔術めいた力を持ち、病を癒して肉体と精神を純粋なものに
し、自然の中に奇跡を起こせると考えられていて旧約聖書の中にもそんな場面が描かれています。その中で面白いと思ったのは、プ
ラトンがB.C360年頃に書いた「国家」の中で、「人間には肉体を鍛えるための体育と、精神を訓練するための音楽をバランスよく
公の教育で行っていかなくてはならない」と言っていることです。体育に偏ると野蛮で凶暴な人間が育ち、音楽に偏ると神経質で軟
弱な人間が育つそうです。

  アリストテレスの語る音楽 

また、アリストテレス(B.C384‐322)によれば、音楽は人間の優しさ、怒り、勇気、哀しみなど魂の様々な情感を直接模倣し、
(すなわち表現し)それを聴くことによって同じ情感に感染するので、すなわち「正しい音楽を聴いていれば正しい人間になり、
間違った音楽を聴いていれば間違った人間になる」と言っています。また、B.C5世紀を過ぎてから、それまで詩を伴った声楽が中
心でその伴奏の役目しかなかったキタラやアウロスの器楽が独立して成長するにつれ、名手も多く誕生し競技会のようなものが増え
てきたのに対し、「音楽を学ぶ者にとっては、目もくらむような演奏技術が先行している競技的なものを求めなくなるとき、音楽は
正常な姿になるだろう・・・音楽の通俗的な面に喜びを感じるだけでなく、気高い旋律やリズムに喜びを見出すことができるように
なるところで留めるべきである・・・」これは現代に生きて音楽表現、音楽教育を目指す私達にも警告として受け止めるべきかもし
れません。結局、2500年以上昔も今も、人間は本質的に変わっていないということかもしれません。

  音楽と人生 

音楽は数学や天文学と並んで、人間が生きていくためには欠かせないものでしたが、音楽が生まれるには背景には、彫刻や絵画、文
芸、舞踊など他の芸術と同じく、その土壌、時代、言葉、仕事、宗教、建築、季節、流行などあらゆるものが含まれます。
そしてそれらを総括してぎゅっと絞ったエッセンスが「音楽」と言えるでしょう・・・